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FRAGILE(フラジール) ~さよなら月の廃墟~ 記憶アイテムの紹介

FRAGILE(フラジール) ~さよなら月の廃墟~は2009年にWiiで発売された廃墟探索ゲーム。

道行く廃墟の中で手に入る記憶アイテムを焚き火にかざすとの持ち主の記憶(物語)を読むことができます。
その記憶アイテムの全内容をまとめてみました。※クロシェットはこちら(文章が長いので別記事にしました)

【折鶴】

ふふふふ。じゃあ今度は何して遊ぼうか?
んーとね、んーとね。じゃあ、かくれんぼ!
あなたは本当にかくれんぼが好きなのね?
あとね、おりんごも好きだし、かけっこも好きだし
あらあら、かけっこは苦手じゃなかったかしら?
苦手だけど、すきなのっ!あとねあとね、おかあさんも好き
お母さんも、あなたのこと大好きよ
へへー
ふふふ

【お母さんの靴】

また、地震……。早くあの子のところに戻らないと
ああっ。きゃああああ
はやく、もどらないと……
待ってて、今行くからね……

【おもちゃ】

知らない人は入れちゃだめだよ
うん
大丈夫。お母さん必ず帰って来るから、約束よ。お母さんが約束を破った事あった?
やくそく
うん。約束
…お母さん
なあに?
はやく帰ってきてね

【破れた手紙】

アナタと会う予定だったのに、もう会えない。
世界が終わり、世界が目覚める。
コレが見つかることはない。
もしこれが見つかったなら、目覚めた世界はどんなのだろう。
星はまだ空にありますか?
月は空に昇っていますか?

【辞書】

どこを引いても見つからない。どう表現すればいい。この悔しさは。
どこをめくってもわからない。
このなかのどの言葉を用いても説明することができない。
いや……違う。
見慣れたページには偽りの意味しか記されていない。
今となっては、言葉の意味すら変わり果てた。
見果てぬ夢と共に奪われてしまった。
もはや膨大な言葉は必要ない。
ただ1つ、これを除いて
「明日」
存在しないもの。

【ゲームカセット】

勇者「ああああ」
それはもう適当につけた名前だったけれど、
途中で名前を変えてやり直そうと思った時もあったけれど、愛着も少しはあったんだ。
変な名前のくせしてカッコよくお姫様を救い、間抜けな名前で王様に呼ばれるお前。
「ああああ」よ。
ここで消えていいのか?
結局世界を救えないまま、「ああああ」という名前のまま終わっていいのか?
すまん、「ああああ」。
もっとちゃんと名前考えてやればよかったな。

【ひびの入った牛乳瓶】

ただ、希望もなく働いて
時間に追われる日々を過ごして
幸せだと思う間もないまま
誰の記憶にも残らずに、消えて行くというのか
ならば俺は
俺達は
一体、何だったのだ!

【携帯電話】

…あ。もう録音はじまってる!
あ、えっと、
これから私は世界を見送るために出かけようと思います。
途中で行き倒れてしまうかもしれないけど、
一歩でも多く歩いて、進んで、時間の許す限り、この世界を見届けたい。
この場所に、この世界に私がいたことを残しておきます。
もしこれを聞いている人がいたら、どうか覚えていてください。
私が生きていたことを

【ラムネのビン】

飲むたびに不思議だった。
どうして中にビー玉が入っているんだろう?
ビンを口にくわえて逆さまにすると、そのビー玉が飲むのを邪魔をする。
でもそれがないと、ラムネを飲む意味もないんだ。
取り出したいのに取り出せないから、舌で奥に押しやって遊んだりした。
もしかしたらそれは、手を伸ばしてもけして届かないものがあるのだと。けして叶わないものがあるのだと。
僕らにこっそり、教えてくれていたのかもしれない。

【犬の首輪】

どんよりと曇った日のことだった。
君が、いつもより遠くまで散歩に連れていってくれた。
見上げると、悲しそうな顔してた。
戻ると、その顔で僕を抱き締めた。僕は励まそうとしっぽを振った。
でも、曇った顔のままだった。
すると、君の目から雫が落ちた。僕はそれを舐めてあげた。
しょっぱい味がした。
君は、立ち上がると手を振った。
応えるように僕は吠えた。ふと僕の目からも雫が落ちた。

【しぼんだ風船】

ねえママ楽しかったね
帰ろうよ
パパのところに
何だかいつもより
嫌なタバコの煙のようなお空
黒いカラスが鳴きはじめた
もう帰らなくちゃ
僕の右手のママ
僕の左手の風船
何が起きたの?
ママ何処へ行ったの?
誰かママを知らない?
誰か誰か…
風船と僕
一人ぼっち恐くて
蝶々が飛んできた
夢中で捕まえたんだ
一人ぼっち恐くて
握ってポケットにいれた
両手をじっと見た
僕は真っ赤な目で
ああ僕は本当に
一人になっちゃったんだね
ねえ帰ろうよ
パパに今日のこと、たくさん話すんだ
もう鳴いているカラスも居ないよ

【学生たちの集合写真】

悔いの無い一生を送る。
それが俺の人生最大の目標だった。
その目標通り、俺は一切悔いなく今まで生きてきた。
勉強も良く出来たし、大手会社にも入社できた。
金にも困らなかった。欲しいものはある程度買えた。
病気も俺には無縁だった。もちろん入院なんかしなかった。
まったくもってすべて丸く収まったいい人生だった。
はずなのに。
なのに、悔しいよなぁ。
俺が死んでいくこの瞬間に、一緒にいてくれる人が誰もいない。
…………怖ぇよ。

【こわれた爆弾のリモコンスイッチ】

こんな世の中消してやると思ったが
俺のほうが先に消えていくなんて、それに俺がこのスイッチを押さなくても勝手に世界が終わっていく。
このリモコンを手に取った人、押してみるかい?
廃墟と化した世界がさらに崩れるのもきっと味があるぜ。
生き残りを探すのに疲れたら押してみな。
ハッタリと思うかどうかはあんた次第だぜ。

【汚れたシューズ】

ずっと坂道を登ってきた、履き汚れたシューズ。
こんな真実なら、知りたくも無かった。
何も知らずに、坂道を登っていればよかった。
頂上なんて本当は無くて、頂上は何も無い丘で。
何にも無くて
何にも無くて
坂道なんて無くて
最初から何も無くて
生まれてきたことすらも価値が無くて
生きてる理由も無くて
でも死んでしまう理由だって無いのに願いは届かなくて
神様なんて最初からいなくて

【マグカップ】

暑い日には冷たい麦茶を、寒い日には温かいココアを私へと運んでくれた。
それなら、私の想いを注げば、私の望む場所まで運んでくれるのだろうか。
もしそうなら、一滴でも多く想いをいっぱい運ぶ為に、いっぱい注いで。
あの場所まで、こぼれないように、落とさないように。

【仕事が驚くほどうまくいく方法】

今思えば私は自分を変えようと思いつつも、
心のどこかでこの変わらない日常が永遠に続くと思っていた。
もう時間がない。今から何も始めればいいだろうか。
とりあえず部長には謝ってこよう。

【仕事用の手帳】

ごめんなさい
もし母さんに届いたなら嬉しい
ずっと謝りたかったから
届かないかもしれないけど
あの時は一度
ごめんなさい
俺が全部悪いです
あんなのは嘘ですから
笑って許して下さい
生き残れたらちゃんと
口にしてあやまるから許してね
今から帰るけど、これはいざという時のためのメモです
もし誰か他の人が見たら、母に伝えることができるなら、どうかお願いします。
勝手をいってすみませんが頼みます
死にたくない
まだ死にたくない

【ラジオ】

こんばんわ。
いつも楽しい番組をありがとうございます。
もう、あなたの声が聞こえなくなってしまうのがとっても残念です。
この番組が大好きで、いっつも元気づけられました。
この最後のおたよりが読まれる事はもう無いけれど、感謝の気持ちを込めて送ります。
ホントにホントに、ありがとうございました。

【すり切れた首輪】

どうして帰って来ないんだろう?
ドアを見上げてるの、もう疲れちゃった。
いつもだったらご飯をくれて、一緒にいただきますをしている時間なのにね。
僕、今日は散らかしてないよ。カーペットだってかじってない。
早く帰って来てよ。
いっぱい撫でて、名前を呼んで。それから、抱きしめて欲しいんだ。
ずっとずっと、良い子で待ってるから……。

【ペンダント】

まだ、死ぬ訳には行かない。
絶対に帰らなくてはならないんだ。
約束したんだ。もう一度…無事に帰って来て、君の笑顔を見ると。
でも、それももう無理なのかも知れない。
だからせめて、最後にもう一度だけ…君の笑顔を見て、謝ってもいいかな?
たくさん罪を犯した僕は、君と同じ場所には行けないから。
…約束を守れなくて、ごめんねと。

【小さなくつした】

まだ見ぬ、だけどもうすぐ生まれてくるはずのきみへ。
いつか、なぜこんな世界に生んだのかと怒る日が来るかもしれない。
僕にぶつけたい恨み言もあるはずだ。
でも、多分もういないはずの僕にはそれを聞いてあげる事はできないと思う。
ごめん。ただ、これだけは信じてほしい。
それでも僕達は、君にこの世界で幸せになってほしいと願っていた事を。

【手帳】

やることリスト
・ケーキ1ホールを1人で食べつくす
・家族みんなで食事をする
・会える友達には全員会う
・読んでない本を読み終える
・ほしかった服を買う
・あの人と、仲直りをする

【チャペルの鍵】

うまくいったよ親父、勝手にやっていいってさ
そうか……
ほら、式場の鍵ももらってきた
……いいのか、本当に
さすがに、ホテルのスタッフも最後の時間をそれぞれ過ごしたいって言ってるし、招待客も無理だろうけどね。
いや……それはもちろんだが……
いいんだよ。親父とあいつと、俺。三人いれば十分だよ。そうだ!悪いけどさ、親父、式できることになったって、あいつに伝えてきてくれないか?
私が、か?
ほら、式がはじまるまで新郎は新婦に会っちゃいけないって、よく言うだろ?使っちゃって悪いけどさ、頼むよ
……分かった
ありがとな、親父……感謝してる
バカ、恥ずかしいなら言うな。そんなこと

【リングピロー】

お義父さん
ホテル側と話がついた。何とか式は挙げられることになったよ
本当ですか!良かった……嬉しい
それは?
リングピローです。あの人がこれを使おうって、持ってきてくれて
すまない、どこか見覚えがあるような……。
ふふ、お義父さんたら。忘れたなんて言いませんよね?
いや、その……それは、私たちの?
ええ、お義父さんとお義母さんが使ったものです。ほら、イニシャルが刺しゅうしてあるでしょう?
ああ
まさか私のイニシャルがお義母さんと一緒だったなんて
……申し訳ない。こんなことになって
そんな、お義父さんが謝ることなんてないですよ。私、本当に幸せなんです。だって、最後の最後に家族ができるんですもの
家族……か
お義父さん。本当にありがとうございます
え?
あの人を育ててくれて。それから、私を受け入れてくれて。私たち、きっと幸せになります

【父の指輪】

なあ、お前。今夜は無性にお前と話がしたい気分だよ。おかしいだろう。あと一日もすれば、私もお前と同じ場所に行けるはずなのにな
今日、私たちの息子が結婚するよ。相手は、あのバカにはもったいないくらい気立てがいいお嬢さんだ。やっぱり親子だな。彼女は少し、雰囲気がお前に似ているよ
二人とも幸せそうだ。こんな状況だというのに……私は、ダメな親父だな。どうしても……納得出来ないんだ
こんな理不尽が許されるのか?あの二人は、これからじゃないか。やっと手に入れた幸せがこんな風に奪われなければならないなどと……納得できるわけがない
……ああ、わかってる。それでも、私は二人を祝福してやらなければならない。この結婚に立ち会って、おめでとうと言えるのは、私だけなんだ
わかってる。わかってはいるんだ……だが、それでも……
なあ、きいているか?お前なら、お前が生きていたら……笑って二人の門出を祝うことができたんだろうか……?

【ウェディングブーケ】

ええと……健やかなるときも、病める時も……これを……んん?
おいおい、しっかり頼むよ、親父
待て、そもそも私は神父でも牧師でも無いんだ。多少慣れなくたって……ああ、ダメだ!最初からやりなおそう
大丈夫です。もっとシンプルにしましょう?せっかく私たちだけの式なんですから
それもそうだな。よし、親父。俺は彼女を妻として、生涯愛し続けるって誓うよ
私も、誓います
あ、ああ、それじゃあ……
誓いのキス、だろ?
それくらいわかってる!
ふふっ
……その笑顔につられて、思わず私の頬が緩んだ
なんだ、笑うのがこんなに簡単なことだとは。今このひとときの幸福に比べれば、明日への不安は些事にすぎないとすら思えるほどのきらめきがここにはある
私は今、ただただ心からこの幸せを分かち合いたい。その少し先に、たとえ避けられない終わりが迫っているとしても
ありがとう、親父
ありがとうございます。お義父さん
おめでとう……本当に、おめでとう

【コンパス】

兄ちゃん、どっか行くの?
おう、ダムまで探検だ!
え、でもお母さんが今日はダメって言ってたよ
はぁ?なんでだよ
よくわからないけど……わかりあえるようになったから、大事に、うぅん、一緒に……えっと
お前、ばっかだなー。頭んなかにあることの半分も言えてないじゃん……って、あれ?なんで俺、お前の考えてることわかるんだ?
うん、だから……大変なんだって
なんだかよくわかんねーけど、まあいいや、俺は行くぜ
えっ、でも……
なんだよ、お前もついてきたいのか?
いいの!
お前、トロくて正直足手まといだけどな。なんか今日は本気だってわかったからな
うん!ボク、がんばるよ!

【秘密の地図】

おい、もたもたしてると置いてくぞ!
あっ、兄ちゃんごめん
お前、さっきからなに書いてるんだ?
地図だよ。帰れなくなったら大変だもん
ばーか。ここは俺の庭みたいなもんだぞ?迷子になんかなるかよ
でも、ボクにはいるんだよ
お前、次はひとりでここまで来るつもりなのか?
できるよ!だってボク、兄ちゃんの弟だもん
ふーん……お前、意外と根性あるんだな
だから、ちゃんと書かなきゃだから待ってて。完成したら兄ちゃんにも貸してあげるよ。ボクたちの秘密の地図だからね
だから、そんなもん俺にはいらないっての
万が一ってこともある。っていつもお父さん言ってるよ
はいはい、お前なにかというとお父さんお母さんだよな
だって……
ほら、もういいだろ?行くぞ、遅れんなよ!

【きらりと光る石】

うわぁ……
どうだ!すごい眺めだろう?
うん、兄ちゃんすごいよ……
ここはとっておきで……って、お前、どうしたんだよ?
……っぐ、えぐ
なんで泣いてんだよ。変な奴だな
ひぐ……っく、ごめん……
やめろよ、なんか俺まで変な気分になってくる……
兄ちゃん……ボク、さいごなんてやだ
なに言ってんだよ
お母さんが、言ってたんだ。さいごだって。やだよ、ボク、また兄ちゃんとここに来たい
なんだよそれ、わかったから泣きやめよ……しかたないな、ほら
わぁ。なに、この石?きれいだけど……
ここで見つけたんだ。すげーだろ?次はそれを探しに行こうぜ
次?ほんとに?
約束だ。だからお前にそれ貸してやる。次までにちゃんと調べとけよ
う、うん!
……さいご、なんて変なこと言うな
うん……でもお母さんが
次の約束しただろ。約束やぶるのは男の恥だからな!
うん!ありがとう……兄ちゃん

【クッキー缶】

おい、腹減らないか?
食料持ってきたんだぜ……って、なんだよ、寝てるのか。
ちぇっ、つまんねぇの……まだまだガキだな
次はさぁ、もっと面白れぇとこ連れてってやるよ!けど危険だからな、お前じゃびびって途中で諦めちまうかもなぁ
…………なぁ
……ほんとに寝てんのか?
……おい、おぶって帰るのはごめんだぞ!
ったく、しかたねぇ奴
……起きるよな?
さいご、なんてウソに決まってらぁ!
……ウソに、決まってる
……ばっかみてぇ
おい、帰るまでには……ちゃんと起きて、自分で歩けよ……

【博士のマグカップ】

どうぞ
うん、いいね、この香り。君が淹れるコーヒーは絶品だ
コーヒーメーカーですが
気持ちの問題だよ
無駄口は結構です。仕事して下さい
いいじゃない。君もコーヒー休憩しようよ、一緒にさ
遠慮します。作業がありますので
熱心だねぇ
博士が怠惰なだけです
僕みたいなのががんばらなくても、計画はちゃんと賢い人たちが進めてくれるよ
博士ご自身も、世界中から選ばれた研究者の一人のはずです
うん、たぶんなにかの間違いだよね
いいえ。博士はやる気が無いだけです
やればできる子理論って、信憑性ないよね
博士
わかったよ。仕事すればいいんだろう、仕事すれば
わかったならさっさと取りかかってはいかがですか?

【万年筆】

刻み込まれた名前が指先に触れるたびに、あの笑顔を思い出す。
これならいつも使うものだし、邪魔にならないでしょう、と手渡してくれた時から、相変わらず俺は書き続けている。
絶対の真実から、おそらくそうでないものまで。
多分、書いているうちに終わりは来るんだろう。
少しでも残れば儲けものだが、最早どうでもいい。お前がくれた言葉を、もっと書き留めておけばよかった。

【博士の日記】

八月二日。今日もいつもと変わらない穏やかな日だ。何事もないのがなによりだ
それにしても、例の研究の進行速度には目をみはる。噂の天才クンの実力か、僕みたいなのから見ると、いささか急ぎすぎと思わなくもない。どうも何かひっかかる……科学者のくせになんだが、とくに根拠はない
というか、あんなに急いで研究しなくてもよさそうなのに、本当に真面目だなぁ……なんてそんなこと言うと、また彼女にどやされてしまうかな
僕の有能な助手は僕のなまけ癖が許せないらしい。まあ、彼女はそうとうデキるから……将来有望な研究者の下についた方が伸びるのは間違いない。僕としても機会を見つけては異動をすすめてるんだが……意外と頑固なんだよな
まあ、彼女のコーヒーが毎日飲めるのは、僕としては大歓迎だ
……うーん、コーヒーのこと書いたら飲みたくなってきた。おーい!

【助手のマグカップ】

うーん、なんだか大変なことになっちゃったね
……
すごいなー、僕たちは人類を滅ぼした大罪人だね
……
……お喋りしようよ?
もう、言葉はいらないはずです
そりゃそうだけど、いいじゃない。僕、君の声好きだよ
セクハラですか?
うっ、厳しいねぇ
……どうして、そんなに落ち着いていられるんですか?
君だって落ち着いてるように見えるよ
いいえ、おわかりでしょう?私は怖い……死を、恐れている
それが普通だよ
ですが、あなたの心には全く動揺がない!あなたは……予測していたんですね、こうなることを
買被り過ぎだよ。僕はただの仕事嫌いの研究者だ
ですが!
そうだ、コーヒー淹れてくれるかな?
こんな時に……
カフェインを摂取すれば、眠れなくなるっていうじゃない
時間の問題です
うん。でもさ、頼むよ。やっぱり最後はあれが飲みたくてね
……わかりました
ミルクはいらないよ、砂糖は……
スプーン二杯。ちゃんとわかってます、博士
うん、ありがとう
……あの
なんだい?
えぇと……私も、ご一緒してもよろしいですか?
もちろんだよ

【睡眠薬】

毎日、当たり前のように時間が過ぎていって、当たり前のように夜になって、当たり前のように誰もが眠りにつく
当たり前のことが当たり前にできない私は、やっぱりちょっとおかしいのかもしれない。
いつからこんな風になってしまったのか、よく覚えていない。ただ、気がついたら夜がとても長くなってしまっていた
最初はたいして気にしていなかったけど、だんだんおかしくなってくる。病院でもらった薬も、いつの間に効かなくなった
こういうとき、眠ろうとするのが逆効果だということはよくわかってる。だから私は眠るのを諦めた。毎晩、ひとりで散歩する夜の街は、けして暖かくはないけれど。

【ギター】


カップルだらけのこのあたりじゃ、立ち止まって聴いてくれる人なんていないのに、その人はいつもそこで、ギターを弾いていた
よ、こんばんは
……こんばんは
今夜も散歩かい?
そっちも、あいかわらずだね
まあな。ところで、まだ眠れないのかい?
眠れたらこんなことしてない
ははははっ、そりゃそうだ
……続き、弾いてよ
なんだよ、嬉しいこと言ってくれるじゃん
あんたの曲、眠くなるのよね
……まあ、それでもいいさ

【テーラードジャケット】

よっ
まさかいると思わなかった。こんな状況で、よくそうしてられるわね
へへ、そりゃお互いさまだろ?
……そうかも
今夜は弾かないでおくか
なんで?
眠りたくないだろ?
ううん、眠らせて
……ほう。そりゃまたどうしてだい?
不眠が原因で最後のひとりになるなんて……絶対イヤ
なるほど
……お父さんも、お母さんも、友達も、みんなもう寝ちゃったから
わかったよ
……なんだよ、もう寝ちまったのか
ほら、風邪ひくぞ。上着貸してやるよ……
こっちはまだ、眠れそうにない、か。
なあ、最後のひとりじゃなくて、よかったな

【破れた絵1】

あなたは何処から来た人?何処へ行く人?きっと私が知らない何処からか来て、私が行けない何処かへ行く人なのだろう。
十二歳の時、私は高熱を伴う大病にかかって、運動神経に損傷を負った。命は取り留めたけれど、足に麻痺が残った。
歩けなくなる前の私はプリマドンナになる事を夢見ていた。みんなの前でバレエを披露して、褒められるのが好きだった。お前の笑顔は周りを明るくしてくれると両親に言われ、幼い私は誇らしげに胸をそらしたものだった。
この頃の事を話す時、マオの事に触れない訳には行かない。マオは幼馴染の男の子で、何時も一緒に遊んでいた。お互いの夢を語り合っては、それぞれの未来に胸を膨らませていた。マオの夢は植物学者になる事だった。
『遺伝子って知ってる?花の色は細胞の核の中にある遺伝子で決まるんだ。僕は植物遺伝子を勉強して、今まで誰も見た事ない色の花を咲かせてみせる。』
私は自分の夢とマオの夢を合体させた絵を描いた。マオが育てた花畑の中で、大人になってとても綺麗になった私が踊っている絵。ツリガネソウに似ているその花は昼の間は雪の様に純白で、夜になると青色の光を灯す。ランプ草と私は名付けた。夜の間ランプ草の花畑は私を照らす私だけの舞台になる。
『昼と夜とで色が変わる花か……。』
私が絵を見せて説明すると、マオは口の先をちょこんと尖らせて優しい顔で少し考えていた。
『うん、面白いね。昼は白、夜は青。それから夕方の短い時間だけ茜色の光を灯すっていうのはどうかな。』
私のアイデアにマオは更に素敵なアイデアを付け加えた。それはマオから私へのプレゼントみたいに思えて、私はすっかり嬉しくなった。私の名前はアカネっていうのだ。
マオはひょろっこい男の子だったから、よく他の男子にからかわれてメガネを隠されたりした。メガネは教室のゴミ箱の中とか、黒板消しのクリーナーの中とかから発見された。
けれど、いじめっ子共に憤慨するのは私だけで、マオは割れてなくて良かったと言って、メガネを洗って掛け直すだけだった。そんな様子が生意気だとか言われてまたからかわれる原因になるのだけど、マオは煽動に乗らなかった。
マオの頭の中は植物の事でいっぱいで、いじめっ子達の煽動なんてマオにとっては雑音みたいなものだったのだ。それ所か私がいじめっ子達に憤慨したり、一緒にメガネを捜したり、給食の時机をくっつけたり、体操でペアを組んだり、そういう事も、マオには段々どうでもいい事になっていった様に思う。
遺伝の法則を発見した人の話だとか、それでもって花の色がどうやって決まるかも分かって来たとか、そういう話をする時だけマオは興奮して目をキラキラさせた。
マオにとっての私の存在は、自分の夢を語りかけるただの鏡みたいなものになっていった。

【破れた絵2】

私が通っていたバレエスクールの発表会の日、絶対に来てねって言っておいたのにマオは来なかった。
私は舞台から目を凝らして、客席の方ばかり気にしていたので、隣の子の足を引っ掛けて転ばせてしまうという失態をやらかした。
すっかりしょげこんで帰って来ると、家の前でマオが待っていた。
『マオ、何で来てくれなかったの。』
私は駆け寄ってマオに詰め寄った。マオの返事は『うん、ちょっと。』だった。ちょっとって何?
『それより見て、これ。』と、マオは持っていた白いビニール袋の中身を見せた。それよりって何?
『ツキヨダケって言うんだ。暗闇で発光するんだよ。これの発光物質を調べてツリガネソウの遺伝子に組み込む事が出来れば……。』
泥だらけの頬を興奮して紅潮させて語るマオに、私は今までになく腹を立てた。私の発表会をフイにして、マオはキノコを採りに行ってたのだ。
私は手を振り上げて、マオの手からビニール袋を叩き落とした。ビニール袋の中の土が舞い、数株のキノコが地面に叩き付けられた。
それを見てマオはとても悲しそうな顔をした。ほら、マオは私の事よりもキノコの方が心配なのだ。マオなんかキノコと結婚すれば良い。
『バカみたい。キノコ何かに夢中になっちゃって。マオは私に付き合うのが面倒なんでしょう?植物は発表会見に来てなんて言わないし、マオをからかわないし、宿題しなさいって言わないし、マオの都合が良い時にちょっと世話すれば良いんだもん。マオは人間が苦手だから植物に逃げてるだけなのよ。そんなのを将来の夢だなんて言って、私の真剣な夢と一緒にしないで。』
分かってる。発表会で失敗した鬱憤をマオにぶつけただけだ。自分の夢が躓いたからってマオの夢を貶めるなんて、私は最低だ。マオをほっぽり置いて家に飛び込み、自分の部屋に閉じこもった。
部屋の壁の一番良い場所にあの絵が貼ってある。ランプ草の花畑で大人の私が踊っている絵。マオと私の夢が揃って実現した日を描いた、私の宝物。
壁から剥がそうとしたら、画用紙が破けた。一瞬凄く後悔した。けれど私は意地になっていて、二つに破けた画用紙を更にビリビリに破いて、ゴミ箱に捨てた。

【破れた絵3】

私が高熱を出したのは、マオと喧嘩をした日の夜の事だった。色んな夢にうなされた事を断片的に憶えているけれど、どの夢の隅っこにも常に同じものがあった。
自分で破いたあの絵だった。絵の中の私の足首の所が丁度ぶった切られていて、踊っている私には足が無かった。
その絵は現実になった。熱が下がっても、私の足には麻痺が残った。バレエで踊る事は勿論、自力で歩く事も出来なくなった。何週間も部屋で塞ぎこんだ。マオが何度かお見舞いに来たが、その内にマオは来なくなった。
暫くして車椅子で学校に復帰した。目線が低くなったので自分が幼い子供に逆戻りしてしまった気分だった。目に映る何もかもが以前と変わっていた。学校の校舎は私を押し潰そうとする灰色の巨人だった。
友達は私に親切にしてくれたけど、みんなが私を見下し、嘲笑っている様な気がした。私はあまり顔を上げなくなった。学校でマオと行き会っても、目を合わせなくなった。
病気が私から全てを奪って行った。プリマドンナになる夢も。周りを元気にすると褒められた笑顔も。マオも。
車椅子に頼りながらも私はみんなと同じ様に学校に通った。持ち前の負けん気で勉強も頑張ったし、給食ももりもり食べたし、委員会の仕事も率先してやった。やがて私は以前の様な笑顔を取り戻した。
新たな夢も見つけていた。スポーツ競技のカメラマンになるっていう夢だ。これなら車椅子でも楽しめるだろうと、父がカメラを買ってくれたのがきっかけだった。
病気で失ったものの内、ただ一つ取り戻す事が出来無いでいるものがあった。マオとはあれ以来疎遠になったままだった。マオに対する不満や憤りの感情はとっくに消えていたけれど、以前の様に話すきっかけが中々無かった。
中庭の花壇の世話をしているマオの姿を私はよく校舎の窓から眺めた。この頃の私は前よりもマオの事が分かる様になっていた。不思議な事だけれど、近くにいた時よりも遠くから見る様になってからの方が良く分かる様になった。
私が思っていたよりも植物はずっとデリケートで気まぐれな性格をしていて、ちょっと世話を怠るとすぐに機嫌を損ねる。声に出して喋らない分、腰を据えて彼等の様子を観察し、彼等の要求を汲み取らねばならない。
お水は足りているの。肥料は。調子の悪い所は無いの。順調に育っているの。
マオは根気よく植物達の面倒を見ていた。元気の無い株があれば、土を入れ替えたり、添え木をしたりして夕方遅くまで残っている事があった。心無い生徒に踏みにじられた花の前にしゃがんで、長い事俯いていた事もあった。
他の生徒達が大声ではしゃぎ合っている間、誰も気に留めない植物達の声無き声にマオだけが耳を傾けていた。

【破れた絵4】

本当に久しぶりにマオと話したのは、高等学校の卒業式の日だった。マオは故郷を離れて都会の大学に進学すると先生から聞いていた。植物学の勉強が本格的に出来る大学だ。
仲違いしたまま別れるのは嫌だ。卒業式が終わってから校内を捜し、中庭の花壇の前でマオを見つけた。
久しぶりに間近で見るマオは記憶にあるよりも随分背が伸びていた。土の色が染込んで黒っぽくなった手指がひょろりと長くてごつごつしている。
くたびれた帆布の肩掛けカバンの肩紐を長くしていて、カバンがお尻の所にある。それだけの事に何故かドキドキした。
昔の様に話せば良い筈なのに、急に思い出せなくなった。昔の私はどんな声で話していたのか?高い声?低い声?
どんな言葉遣いで話していたのか?ぶっきらぼうな感じ?可愛い感じ?どんなタイミングで私は笑ったのか、怒ったのか?
自然にやっていた筈の事が思い出せない。
さっきまで卒業生や在校生が泣いたり笑ったり、あっちからこっちへとひっきりなしに交わしていた言葉が周囲にまだ余韻が響いている。ずっと友達だよ。元気で。頑張ってね。さよなら、また会おう……。
余韻に耳を澄ませたが、今マオに言いたい言葉はその中に見つからない。
『マオ……しゃがんで。』
ようやくそれだけの事を口にした。マオは少し戸惑ってから、車椅子の私に目線を合わせて膝を折った。
懐かしい匂いがした。湿った土の匂い。マオからは何時も土の匂いがする。昔、本を読んでいるマオの側でお昼寝するのが好きだったっけ。草原の真ん中に寝転んでいるみたいで気持ちが良かった。
あの頃と同じマオをやっと感じて、自然と言葉が出る様になった。
『ランプ草の研究、まだ続けてるの?』
『うん。大学は機材が充実してるから、今よりもずっと本格的な研究が出来るよ。遺伝子操作はまだ難しい分野だからすぐには成功しないかもしれないけど、試してみたい事はいっぱい考えてあるんだ。四年間じゃきっと足りない位だよ。』
きっかけが出来ると、マオは昔みたいに目を輝かせて語り始めた。記憶にあるよりも低い声。力強くて自信に溢れていて、でも昔のマオと同じ様に繊細な所もある。
私は何だか色んな感情で胸がいっぱいになって泣きそうになる。卒業式では泣かなかったのに。
この数年間、どうしてマオと離れていられたのだろう。声を聞かずにいられたのだろう。どうしてマオの匂いを嗅がずに息をしていられたのだろう。どうしてもっと早くに仲直りしようとしなかったのだろう。マオは遠くに行ってしまうのに、私の足ではそこまで追い駆けて行く事は出来ないのに。
マオは私の傍らにある樹の様な存在だった。私の周囲に心地よい木陰と、喉を潤す朝露と、新鮮な酸素をいっぱい作ってくれる、静かで穏やかな樹だった。
『マオ、私達ずっと友達だよね。』
『うん。』
『あっちに行っても元気でね。』
『うん。』
『頑張ってね。』
『うん。』
『さよなら……でも、また会おう。』
『……うん。』
私はカメラの勉強を続けている。仕事も貰える様になった。スポーツ選手の力強い呼吸や筋肉の躍動に圧倒されながらもシャッターを切る。
仕事とは別に趣味で樹や花の写真も撮っている。根気よく耳を傾けなければ聞こえない程ささやかに。けれどしたたかに息づく植物達の生の営みをカメラに収める時、マオの匂いを側に感じる。
大学を卒業する年になってもマオは帰って来なかった。研究室に進んだという噂を聞いて。また会おうという約束は果たされる事は無いのではないかと、初めから心の何処かで思っていた。私達は既に別々の道を歩み始めていたのだから。
私はマオという樹の下を離れて一人で息をし始めたのだから。私達の夢が昔みたいに一枚の絵に収まる事はもう無いのだから。
あなたは何処から来た人?何処へ行く人?きっと私が知らない何処からか来て、私が行けない何処かへと行く人なのだろう。もしあなたが、旅の途中でランプ草という花の事を見聞きする事があったら、それを名付けた植物学者の名前に少しだけ注意を払ってみて欲しい。
きっとマオって言う青年だと思う。優秀な植物学者になっている事を私は信じている。

【枯れた鉢植え】

君は何処から来た人?何処へ行く人?
きっと僕が知らない何処から来て、僕が行けない何処かへと行く人なのだろう。
僕に残された命は長くないと思う。僕は大学の研究室で植物遺伝学の研究をしていた。しかし高熱に伴う病に掛かり、運動機能に損傷を負った。
原因は研究に使用していたツキヨダケに付着した細菌だった。この細菌が人体に入ると高熱を発症し、回復しても後遺症を負う可能性が高い。
この細菌の危険性に気付いた時には僕は病に侵されていた。この病が僕の命を縮めたのではない。軽い後遺症は負ったものの、僕は命を取り留めた。
しかし僕はこの時、精神を病んでいた。かつて、自分が犯した取り返しのつかない大罪を知ってしまったのだ。
僕には故郷で夢を語り合った幼馴染がいた。僕の夢は植物学者になって、誰も見た事が無い色の花を咲かせる事。
そして彼女はプリマドンナとして舞台に立つ事を夢見ていた。しかし彼女は高熱を発症し、運動機能に障害を負った。
今にして思えば、あの時僕が持ち込んだツキヨダケに付着していた細菌が原因だったのだ。
大切な女の子だった。彼女の夢を叶えたくって、彼女の為の花畑の舞台を実現したくて植物学の研究に夢中になる内、僕は大切なものを見失っていた。
彼女がいなければ僕の夢に意味なんて無いのに。気付いた時には全てが遅かった。未熟で一人よがりな僕の行動が、彼女から夢を、そして僕から彼女を永遠に奪ってしまった。
僕は罪悪感に苛まれ、絶望に暮れ、酒に溺れた。研究室のエリートコースからあっという間に脱落した。今さら故郷に帰る資格も無い。何もかも失った時、僕にはやはり研究しか残っていなかった。
僕は寝食を忘れ、命を削って研究に没頭した。この手記と一緒に鉢植えが残っていると思う。それが僕の最後の研究の成果だ。良かったら、少し見てくれないだろうか。
君がこれを読んでいる今が昼間であれば、清楚な純白の白をつけているだろうか。夜であれば、花弁が仄かな青い光を放って周囲を淡いランプの様に照らしているだろうか。茜射す夕刻であれば、揺れる蝋燭の炎の様な温かな光を宿しているだろうか。
今、何色の花が咲いていますか……?

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