磁化してしまったノギス(工具類)を100均グッズだけで簡単に消磁する方法
うわっ!!ノギスに鉄粉がいっぱい付いてる!
ありませんか?工具の帯磁。
ノギスをはじめ、いろんな作業に欠かせない工具類。しかし、使用しているうちに磁気を帯びてしまうことがあります。
特に、
- 使い古したもの、昔の工具
- ピンセット、ハサミ、ペンチ、ニッパーなどの工具
は、磁化しやすい傾向にあります。
ホラ、クリップもくっついちゃってます。
そこでこの記事では、磁化してしまったノギスを、100均グッズだけで簡単に消磁する方法をご紹介します。
磁化による影響
磁化してしまったノギスは、様々な悪影響を及ぼします。
- 金属粉(鉄粉)が付着する: ノギスのジョウ部分に金属粉や鉄粉が引っ付いてしまうので、拭き取る手間が増えます。
- 測定誤差: 測定部分に鉄粉などが着くと、正確な測定ができなくなります。
- 動作不良: 金属粉がノギスの隙間に詰まると、スライダー部分の動きが悪くなり、スムーズな測定が妨げられます。
- 傷の原因: 付着した金属粉がスライダー部分と擦れることで、ノギスに傷がつく可能性もあります。
趣味でDIYをする程度であれば、金属粉が発生する機会は少ないため、大きな問題にならないかもしれませんが、金属加工の現場では、これらの影響は無視できません。小さな金属片がノギスに付着することで、正確な測定ができなくなるだけでなく、作業効率の低下や製品の品質低下にもつながるため、なるべく対策が必要です。
帯磁(着磁/磁化)とは、金属が磁気を帯びることです。帯磁した金属は磁石のようになってしまうわけですね。特にとんがった先端部分なんかが磁化しやすい部分であります。
ノギスが磁気を帯びているかどうかを確認する方法はいくつかあります。
- クリップで確認
最も簡単な方法は、小さなクリップ(ゼムピン)をノギスのジョウ部やデプスパーに近づけてみることです。もし、クリップがノギスに引っ付いてしまうようであれば、ノギスは着磁しているでしょう。 - コンパス(方位磁針)で確認
コンパスを使う方法もあります。コンパスにノギスを近づけて針が振れるかどうかを確認します。もし、コンパスの針がノギスのほうへ引き寄せられるようであれば、ノギスが磁気を帯びている証拠です。 - 鉄粉の付着を確認
ノギスを使用した後に、ジョウ部分に鉄粉が付着している場合も、磁化している可能性があります。金属粉だらけの床にそっと置いてみたりしてみてください。もし鉄粉がノギスに引っ付くようであれば、ノギスが磁化していると考えられます。
工具が磁気を帯びる原因
なぜ工具は磁化してしまうのか?
まず、磁場との接触があります。工具を磁石や磁石を内蔵した機器の近くに置いたり、電磁石の近くで使用したりすることが原因です。また、すでに磁化している工具や磁力を利用する器具と一緒に保管することも工具の磁化を引き起こします。
次に、摩擦や衝撃です。工具を落としたり、ぶつけたりすると磁化することがあります。
バリ取りや0点補正をしようとして、ノギスの測定面をヤスリで修正する際の摩擦で磁化することがあります。ヤスリ自体が磁化している場合にもノギスに磁気が移ることがあります。また、鉄粉の多い場所で使用することも磁化の原因となります。
最後に、地磁気の影響です。ノギスを長期間同じ向きで保管すると、地磁気の影響で徐々に磁化されることがあります。
消磁方法の種類について
消磁方法にはいくつかの手法があります。
まず、熱処理による消磁です。高温(キュリー温度以上)に加熱することで、材料内部の磁気モーメントを乱し、磁気を除去する方法です。キュリー温度とは、特定の材料が磁性を失う温度のことです。この方法は確実に磁気を除去できる一方で、ガスバーナーなどの加熱装置が必要であり、熱による変形や硬度の低下が発生する可能性があるため、高温に耐えられない工具には不向きです。
次に、衝撃法による消磁です。これは衝撃を与えることで、内部の磁気モーメントを乱し、磁気を除去する方法です。地面に叩きつけるなどの簡易的な方法が用いられます。この方法の利点は特別な装置が不要であることですが、消磁効果が確実ではなく、工具を傷つけてしまうことが欠点。
さらに、交流電流を利用したデマグネタイザー(消磁器)による消磁です。この方法は交流磁場を発生させることで、工具内部の磁気モーメントを徐々に弱め、最終的に消磁するものです。専用のデマグネタイザー(消磁器)を使用するため、最も確実で効率的な方法です。また、工具にダメージを与えないという利点もありますが、専用の装置が必要。
ノギスのような精密測定工具の場合、熱処理や衝撃法による消磁は適していません。これらの方法は、ノギスの構造や精度を損なう可能性が高いためです。高温での処理やその危険性など、現実的ではありません。
そこで、ノギスを傷つけることなく、手軽に消磁できる方法として、強力な磁石を使う方法をおすすめします。
この方法は、特別な道具や技術を必要とせず、家庭にあるもので簡単に実践できます。必要なものは100均でも揃えられるので、ぜひ試してみてください。
紹介する消磁方法は、ノギスだけでなく他の金属製工具でも実践できます。ただし、注意点として、アナログノギスにのみ適用可能です。デジタルノギスには内部に電子部品が組み込まれているため、磁石を近づけると故障の原因となる可能性があります。
磁石での消磁のやり方
<用意するもの>
強力な磁石: ネオジム磁石がおすすめです。100均で購入できます。直径16mm2個入のを3セット購入しました。
硬質カードケース: こちらも100均で手に入ります。
セロハンテープ: 磁石を固定するために使用します。
<やり方>
硬質カードケースの中に、ネオジム磁石をN極とS極が交互になるように並べて入れます。磁石同士がくっついてしまうので、セロハンテープなどで固定しましょう。
磁石のN極、S極が分からない場合は、磁石同士を近づけて、反発し合う側を上にして並べればOKです。ちなみに方位磁針のNが示すのがS極です。
磁石の入ったカードケースの上にノギスを近づけ、磁石の幅で左右に振りながら、徐々に上方向へ50cm程度まで離していきます。この時、ノギスはN極とS極の間を交互に通過するように動かします。カードケースを手で押さえ、できるだけ速くシャカシャカと動かすのがコツです。
消磁できたか確認です。
ノギスの「内側用ジョウ(左、右)」「外側用ジョウ(左、右)」「デプスパー」の各部位をクリップに近づけ、クリップがくっつかなくなれば消磁成功です。磁力が残っている場合は、これを数回繰り返してください。
原理説明
今回ご紹介した方法は、交流消磁の原理を応用しています。
通常、消磁器は交流電流をコイルに流すことで交流磁場を発生させ、工具の磁区(ドメイン)の向きをランダム化することで消磁します。
今回の方法では、N極とS極の磁石を交互に近づけたり遠ざけたりすることで、簡易的に交流磁場のような状態を作り出しています。
ノギスを磁石の上で動かすことで、ノギス内部の磁区は磁場によって交互に反転。この反転を繰り返しながら磁石を徐々に遠ざけることで、磁場の影響を弱め、最終的に磁区の向きがランダムな状態になり、消磁されるのです。
あくまで簡易的な方法なので、完全に消磁したい場合は消磁器の使用を検討しましょう
今回ご紹介した磁石を使った消磁方法は、あくまで簡易的なものです。
完全に磁気を除去したい場合や、頻繁に消磁作業を行う場合は、市販の消磁器を使用することをおすすめします。
消磁器には、様々な種類があります。
マグネタイザー
マグネタイザーは、工具の着磁と消磁の両方を行うことができる機器です。内部に磁石が埋め込まれた穴があり、工具をその穴に通したり擦ることで磁化または消磁を行います。価格は1,000円前後で、安いものは500円程度で購入できます。また、ドライバーやピンセットなどの小さな工具にも適しています。ただし、マグネタイザーの磁場はそれほど強力ではなく、磁力が弱かったり完全に消磁できなかったりする場合があるため、強力な消磁が必要な場合には不向きです。
消磁器
一方、消磁器は磁気抜き器とも呼ばれ、交流磁場を利用した専用の消磁機器です。ボタンを押すだけで簡単に消磁ができるよう設計されています。強力な交流磁場を発生させることで、工具や精密機器の磁気モーメントを徐々に弱め、最終的に消磁します。消磁器の利点というのは、やはりその強力な消磁能力です。時計やオーディオ機器などの精密機器の消磁にも使用でき、様々な形状やサイズのタイプがあります。価格は、数千円から数万円と幅広く、性能や機能によって異なります。専用の装置であるため、高い消磁力があるところが魅力です。ただし、価格が高価であるため、コスト面での負担があるかもしれません。
消磁器やマグネタイザーを使用する際は、取扱説明書をよく読んでから使用してください。
工具を帯磁させないための対策
まず、工具が不用意に磁化しないようにするためには、磁石や磁性体と接触させないことが重要です。ノギスを磁場の影響を受けにくい場所に保管し、特に磁気を帯びた工具や部品の近くに保管しないように注意しましょう。専用のケースや保管場所を用意して、ほこりや磁気から守ることが望ましいです。
カーボンファイバー製のノギスであれば、磁石にひっつかないので磁気を帯びず、金属粉がくっついてしまうことはありません。ただ、カーボンは樹脂であり、測定物は傷つけにくいのですが、落としたりすると割と簡単にノギス側が傷ついてしまう恐れがあります。それと同じくプラスチック製ノギスは精度が高くありませんし、金属加工業務で使用する場合はノギスの素材はステンレス製がやはり最適解。
ノギスをはじめとする工具類は、私たちの生活や仕事を支える大切な道具です。
しかし、磁化によってその性能が損なわれてしまっては、元も子もありません。
今回ご紹介した消磁方法を参考に、定期的なメンテナンスを行い、大切な工具を長く愛用してください。
もし、磁化がひどい場合は買い替えもひとつの手です。
正しい知識と適切なケアで、工具を最高の状態で使い続けましょう!